現地からの中国事情

中国のカナリア

中国にはさまざまなカナリアがいます。中国経済の強弱を教える経済統計カナリア。ハイテク国家戦略の動向を示すEVカナリア…

 危険を知らせるサインを「炭鉱のカナリア」と呼んでいます。
 産業革命で炭鉱開発が盛んだった19世紀の英国で、有毒ガスによる事故が多発しました。明日は我が身と、鉱夫が有毒ガスの発生に敏感に反応するカナリアと一緒に坑道に入って危険を防いだことから、世界に「炭鉱のカナリア」という知恵が拡がったと伝えられています。

公式統計は国家を測るカナリア

 国の公式統計は、国が健全に発展しているかどうか、炭鉱のカナリアの役目を果たす重要なものです。
 ところが、中国では王朝時代から記録の扱いが重んじられていません。皇帝の一声で書き換えられるのは当然とされています。
 習近平政権2期の10年間、首相を務めた李克強氏は遼寧省書記時代の2007年当時、GDP の実態を把握するために電力消費量、鉄道貨物輸送量、銀行融資額に注目して、政府が発表するGDPの数値を修正し、政策決定をしたと伝えられています。
 中国の公式統計は、あまり当てにはならないと世界の伝説になっていますが、3年ほど前からその公式統計すら発表が減り、最近では取りやめになった統計の数が数百以上に及んでいて、ウォール ストリート ジャーナルが中国の経済、社会状況を掴め切れないと嘆いたほどです。
 改革開放後、「早く中国に進出しなさい」と誇らしげに発表していたのが、海外からのドル流入額を示す「外国投資額」です。しかし、最近は明らかにしていません。
 不動産バブル破綻後も不動産開発が続いている異常さを示していた「土地譲渡面積」の発表も止まりました。
 政府の巨大な債務残高の膨張ぶりが見えた「高速道路建設債務残高」「高速鉄道建設債務残高」、さらには景況観が具体的にわかる「若年者失業率」。自殺・流行病・高齢化など社会の変化を知る手がかりになった「火葬件数」など、いずれも発表されなくなっています。
 その結果、中国のエコノミストは経済の問題点を指摘することが一段と難しくなっています。

世界に不都合な真実を隠す

 なぜ、中国で大事な経済統計が発表されなくなったのでしょうか。
 理由は明確です。経済が不振に陥っている状況を海外に隠したいからです。
 米中関係の悪化で、世界は米国派と中国派の二つに分かれてしのぎ合っています。
 習近平政府は米国の「中国敵視」政策に、アジア、中近東、アフリカ、中南米諸国との友好を深め、関係を強化することで勝ち残ろうとしています。
 そのために中国経済の「弱さ」を示す公式データを隠す一方で、中国が誇る「宇宙開発」を始め、太陽光など「新エネルギー」や「EV(電気自動車)」、「車載電池「」ドローン「」AI 」などが、世界の最先端に立っていることを示す情報を世界中に送り届けています。

最強のEVがカナリアになった

 ところが、習近平政府の思惑に反し、中国の誇るE V(電気自動車)がカナリアになると危険信号が発っせられています。
 E V は習近平政府が2015年に発令した国家戦略「中国製造2025」の中で、太陽光発電やドローンと並んで最も成功した製造業です。
 しかし、世界の自動車産業を衰退に追い込んだほど強かった中国のE V に、不動産の「恒大集団」を連想させる破綻説が出て世界を驚かせています。
 E V 不況が世界に知られたのは、当局がデータを発表したからではありません。中堅自動車メーカー・長城汽車の代表者が、メディアに「業界に第2の『恒大集団』が存在する」と発言をしたからです。
 「恒大集団」とは2021年秋に約8350万㌦(約95億円)の債務不履行に陥り、世界中に中国発の「恐慌勃発」と身構えさせた中国を代表する不動産開発企業です。
 ここで少しE V 産業の勃興の始りについて触れねばなりません。
 国家が総力を挙げて自動車王国を目指したのが1980年代。しかし、ガソリンエンジンで先行する日米欧に追い付けません。
 それで当局は、日米欧に先んじることが可能な電気自動車に的を絞り、「中国製造2025」を発令し、同時に補助金の大盤振る舞いを行いました。
 これに刺激されて、企業がE V に進出。最盛期には1000社に達したほどです。
 ところが熾烈な競争で、24年の末には、E Vメーカーが100社を割り、さらに25年末には10数社に淘汰されると予測されるほど激烈な競争が続いています。
 しかし、中国当局はE V が存亡の危機にあることを示すデータを発表していません。
 映画「731部隊」というカナリア灼熱が続く夏は共産党設立(7月1日)、建軍節(8月1日)、「抗日戦争勝利80周年」(9月3日)と続く、政治の季節です。ここで注目したいのは、中国政府が「抗日
戦争勝利80周年」で軍事パレードの実施を決定したことと、パレードのほぼ1ヵ月前の7月31日に、映画『731部隊』を中国全土で上映することです。
 映画は旧日本軍が創設した研究機関『731部隊』をテーマに描いたものです。同部隊は戦時中、旧満州を拠点に、細菌兵器の研究・実験を行うと同時に、中国人捕虜を使って人体実験をしたとされています。
 予告編をみた武漢の林達也さんは「冷酷、非情で、しかも暴力シーンの連続です。見終わったら、復讐の念を抱く」と言う。
 これは海産物の輸入復活で、親交姿勢を見せる共産党の本音を教えるカナリアです。